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鉄道ファンでもある日本テレビ報道局社会部の田頭祥デスクが解説、「75年ぶり!路面電車新規開業ギョーザの街・宇都宮に開業のワケ」。
■2023年8月 路面電車が走るマチが増える
国土交通省のまとめでは全国18か所で活躍する路面電車。2023年8月、栃木県の宇都宮市と隣の芳賀町に新たに開業することになりました。レトロな車両が走っているイメージもある路面電車、しかし最新型は進化を遂げています。
■ 車体の黄色は「稲光」モチーフに 進化した新・路面電車は車内もスゴい
新路線、「宇都宮ライトレール」を走る車両は新世代の路面電車LRT(Light Rail Transit)と呼ばれます。車両の床面が低いので、ホームも低く設計され、街中から乗り降りしやすいバリアフリーな乗り物となっています。3両編成で160人が定員です。
デザインもあざやかな黄色を黒色が引き締めるインパクトのあるデザイン。宇都宮は「雷」が多い場所で、「雷都」と呼ばれることから、「稲光」をモチーフにしたといいます。
そして車内をみると座席は向かい合わせで、大きな窓ガラスからは外の景色も楽しめます。
■注目の試運転 深夜も多くの市民が道路に 「電車用」信号機もお目見え
建設中の沿線の様子ですが、線路や架線などもできあがってきています。
そして道路には、普通のクルマ用の信号機の横に「電車用」という信号機も設置されました。車が電車の運行を妨げないように信号を制御したり、渋滞の多い交差点を立体交差で越える設計にしたりして、LRT運行の定時性を確保する計画です。
また市民にはチラシが配布されていて、信号機の見方や線路を横断するときの注意の呼びかけが書かれています。地元のドライバーの多くが路面電車が走る道路を走行するのは初めてという事情に配慮した形です。
2022年11月には、初めて公道で車両の試運転が行われました。深夜にもかかわらず大勢の市民が見物に集まり、期待の高さがうかがえました。
■75年ぶりの新規開業 日本の路面電車「苦難の歴史」が…
路面電車がなかった街に新規で建設して開業するというのは、日本では実に75年ぶりです。
長い歴史を見てみると、路面電車は車が急速に増え、道路の邪魔者扱いをされた昭和40年代から全国的にどんどん廃止され、地下鉄やバス路線に置き換わっていきました。日本テレビに残る貴重な映像には栃木県日光市を走る路面電車の映像も。ただこれも昭和43年に廃止されました。
■宇都宮LRTなぜ建設? 終点に工業団地
では、全国で廃れていった路面電車が宇都宮で登場するワケは何なのでしょうか。路線図を見ていくとみえてくるのです。
宇都宮の街はおおまかに言って、JR宇都宮駅の西側に繁華街や、県庁・市役所といった官公庁が広がっています。一方で、今回LRTが開業するのは反対の駅東側です。
宇都宮駅の東口を出発して東に約15キロ、宇都宮市の隣町・芳賀町が終点。全部で19の停留場が設けられ、沿線にはショッピングモールや、JリーグJ2チームの本拠地のスタジアムなどもあります。最大の特徴は、路線が北関東随一の規模の工業団地を目指していることです。
宇都宮市や郊外である近隣の芳賀町には自動車工場など大きな工場があります。しかし、多くの従業員が通勤をマイカーに頼っていて、深刻な渋滞がおきているといいます。
宇都宮市は深刻な渋滞の解消を第1の理由にあげてLRTを建設し、利用してもらうことでマイカーを減らし、渋滞緩和につなげたい考えです。また、CO2の排出を減らして、環境への負荷を下げる狙いもあります。
さらに宇都宮市は、高齢化が進む将来を見据えて、車を運転できなくなっても市内を移動しやすい街づくりをしようとしているのです。
■「コンパクトシティ」富山の”成功”に続くか 宇都宮の成否に全国が注目
実は近年、LRTで街を活性化させようという取り組みが全国各地で始まっていて、国も補助金を用意して後押ししているのです。その「成功例」と言われるのが富山市です。
富山市は将来の人口減少を見越して、市街地に都市機能を集約する「コンパクトシティー」を政策として進めています。その市街地の市民の移動手段としてLRTを位置づけました。従来の路面電車の路線網に加え、繁華街を回遊する新路線を作ったり、以前はJRだった路線を改造して本数を増やしたりしました。車両も、宇都宮のような床の低いバリアフリー対応の車両を導入して、利便性を高め、その結果、乗客も増加しました。
ただ、話を宇都宮市に戻すと、これまで路面電車や地下鉄などはなく、マイカー移動が根付いた街です。通勤時の渋滞は深刻。
とはいえ、自宅から職場までドアツードアで移動できるマイカー通勤をやめて、なじみのないLRT通勤に切り替えてもらえるのか、これはLRTの導入を考える全国の街も、宇都宮の動向は「試金石」として注目しています。
■膨らむ事業費 試運転中に脱線事故も…
期待と不安が入り交じる中で迎えるLRTの開業、難題はほかにもあります。まず総事業費、当初は458億円という計画で始まりましたが、約1.5倍の684億円にまで膨らみました。
そして、開業時期も当初は2022年の春ごろを目指していたが、2度の延期を余儀なくされ2023年8月となりました。累積損失の解消は先になるわけです。
また平日で1日1万6千人あまりが利用するとした需要予測は、新型コロナの流行前に立てられたものです。多くの鉄道会社はいま、アフターコロナの需要について「コロナ前には戻らない」と厳しい予想をしています。宇都宮も需要が予測を下回れば、一層経営は厳しくなります。
さらに宇都宮LRTは、2022年11月に試運転中に脱線事故を起こしました。原因の調査は続いていますが、安全性をしっかりと確保することも求められています。
■乗客を増やす工夫は?快速運転も
乗客の利便性を考え朝夕は6分おき、昼間でも10分おきに運行する計画。さらに快速運転も計画していて、全線各駅停車で44分のところ6分短縮の38分に。
またバス路線を整理して、たとえば宇都宮駅まで向かっていたのをLRTの途中駅で接続する形に変える路線も。その拠点となる駅は、対面でLRTからバスに乗り換える仕組みとします。
そのほか乗降しやすい乗り物を目指し、ICカード乗車券を持っていれば、乗車と降車時にタッチするだけで、どの扉からも乗り降りできるようにします。
■期待されるJR駅西側への延伸 しかしJRを横断する”難工事”が…
ただ、やはり根本的に乗客を増やしたいとなると、宇都宮駅の西側に広がる繁華街へ伸ばすことが求められます。実際、2030年代前半を目標に約5キロ延伸する構想が発表されています。
しかし、期待の一方で、難題が待ち構えています。
1つはJRの宇都宮駅を東口から西口へ横断しなくてはいけないことです。地上を走るJRの在来線を陸橋で越えつつ、高架橋を走る新幹線の線路をくぐることになります。営業中の路線を横断する工事は慎重な施工が求められますので、かなり難しい工事が予想されます。
もう1つは、西側が繁華街ということで、既存の建物が多くあるエリアだということ。用地の確保など難航が予想されます。
こうした難工事の要素があり、同じ距離あたりの建設費は東側の区間よりも高額になる心配があります。
乗客を増やすには西側へ伸ばしたい。しかし、さらなる建設費の負担が重くのしかかるという「引くも地獄、進むも地獄」というジレンマに陥るのを懸念する声も聞かれました。
■路面電車事業者どうしの「絆」…乗務員の研修も
実は、宇都宮ライトレールの乗務員の方々は開業に向け、全国の路面電車の事業者8社に出向して研修してきました。鉄道会社同士の「絆」を感じるエピソードです。鉄道ファンにとっても「夢」を感じるプロジェクトで、全国から一層注目を集めています。
それだけに、巨額な費用をかけて誕生する新たなLRTを最大限生かす努力が行政に求められています。
(2023年1月14日放送)
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