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子どもを助産師に預けるなどして育児支援を受けられる「産後ケア」。多くの自治体が、無料~数千円で提供しています。産後うつ対策として国も進めていますが、母親の約9割が利用していないといいます。その理由を、産婦人科の園田正樹医師に話をききます。
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■国も取り組む「産後ケア」とは?
報道局ジェンダー班 庭野めぐみ解説委員:
産後ケアとはどういうものですか?
園田正樹医師:
対象となるのは産後1年以内の母子で、病院や助産院にある産後ケア施設に母子で一緒に行って、子どもを助産師さんにお願いして自分は休んだり、困っていることを相談したりと、支援を受けられる事業です。2014年ぐらいから本格的に国も取り組み始めています。
自治体によって多様ですが、大きく3つのタイプがあります。宿泊と日帰りの2タイプはお母さんが施設に行くタイプです。もう1つは、助産師さんなどが家に来る訪問型。この3つのタイプがあります。
庭野:利用料はどんな感じですか?
園田:市区町村事業という形で国や、来年からは県も補助するようになり、かなりリーズナブルに使えます。具体的には、日帰りは6時間2000円だったり、宿泊は1泊2日で5000円だったり、場合によっては無料のところもあります。上限回数は7回までなど設定があるのが一般的です。
野中:具体的にはどういうケアをしているのですか?
園田:基本的には(お母さんが)休むというのが1番の支援です。
庭野:産んだ直後は寝られないですもんね。授乳はよく3時間おきと言いますが、1時間おきのことも頻繁で、全く寝られなかったです。
園田:寝られないとうつにもなりやすくなります。あとは育児支援。専門家におっぱいを見てもらうなど体の相談、子どもの体重測定などです。何かこれをやるというのが決まっているというより、お母さんのニーズに合わせて支援してくれるというイメージの方が適切かもしれません。
庭野:体のことはもちろん、心理的安心にもつながりますよね。
■「いきなりパパに」産後うつのリスクは男性にも
庭野:どうして産後ケアは重要とされているのでしょうか?
園田:1番は、産後うつが実は少なくないということ。10%~15%ぐらいのお母さん、毎年70万人くらいがお産すると考えると、10万人くらいが産後うつ、またうつになる手前でもしんどい状況になることがあるという話です。
そういうお母さんの1番悲しい結末というのはやはり自殺です。近年、年間50人くらいが産後うつで自殺してしまっていて、出産時に亡くなるよりも多いことがわかってきています。もっと手前で見つけて、現場の我々専門家が支援しなければいけないということで、今年度末までに全ての市区町村で産後ケア事業を整備することが努力義務になったので、この数年で施設が増えています。
これも近年わかってきたことで、文献にもよりますが大体7%~10%、つまり女性とそんなに変わらない割合で、男性も1割くらいが産後うつになります。
野中:初めて聞いたときはびっくりしました。
園田:女性と違うのは、いきなりパパになるということです。
庭野:妻からも言われるじゃないですか、「あなたはいいわよね楽で」みたいな。
園田:負い目もありますよね。お産のしんどさを想像でしかわからないところもありますし。とはいえ、パパとしても仕事と子育てでタスク量が倍になるわけじゃないですか。本当は自分が子育てを主体的にやりたいと思っても、職場からは「女性と違ってお前は頑張れるだろ」と求められちゃう場合もある。
野中:男性性に与えられる役割が。
庭野:古い人だと「お前が生んだわけじゃないんだから、変わらず仕事をやりなさいよ」とかね。
園田:母親側からもそれを求められる場合もあると思いますし、ギャップがありますよね。
パパも一緒に泊まっていい産後ケア施設は少ないですが、一応あります。僕もそうでしたけど、子どもと一緒に寝ていると2、3時間ごとにパパも起きていますよね。母子が産後ケアを利用してお母さんが1人でしっかり寝られるということは、お母さんと子どもだけじゃなくて、実はパパも休めるということです。
■人によって違う産後の悩み──「お困りごとは?」と急に言われても…
庭野:10%が産後うつとおっしゃいましたが、 グレーゾーンを含めるともっといそうですよね。
園田:実際産後ケアを利用された方の話を聞くと、「自分1人で頑張らなくていいんだ」「地域に子育て支援してくれる人がいるんだ」という安心感を得られたといいます。また、悩みは人によって違うので、オーダーメイドで、検索してもわからない自分向けの情報を得られるのはすごくいいと思います。あと、長い時間、専門家が見ているから、思わず愚痴れるというか。
庭野:自治体の窓口で、5分ぐらいで「何かお困りごとはありますか?」と急に言われても言いづらいですよね。
園田:僕の知り合いで、小児科で産後ケアをやっている医師がいます。意義をきいた時にすごくいいと思ったのが、産後ケアの時に、(お母さんが)「実はもうこれで全部終わりにしようと思ったんです」と、自殺企図みたいなことがあったと話してくれると。そうなった時に自治体と連携してトータル的な支援につなげるような、ちゃんと見つけられる場所、思わず言える場所みたいなものがすごく大事だと思っています。
産後ケアは、元々はハイリスクな方しか使えないという自治体が半分だったんですけど、今年度から“ユニバーサルなサービス”に変わりました。
野中:私も自分が使いたくて探した時に、支援を受けられる対象に値するのかがすごく曖昧で、「サービスを利用したいけど…母親がそばにいるから自分は対象じゃないのか?」と考えてしまいました。
庭野:最近はゴージャスなホテルで特別ランチみたいな産後ケアが流行りですよね。
園田:それは今まで話していた市区町村事業でお金が補助されるものとは全く違う仕組みです。目的に合わせていただければと思っていて、リーズナブルな費用で専門家に話を聞きたいということであれば、自治体のウェブサイトを見ていただくのがいいと思いますし、自分へのご褒美も含めて、お金を出してもしっかり休みたい時には、産後ケアホテルみたいなところにアクセスいただけるといいんじゃないかなと思いますね。
■「利用の度に紙を市役所に」産後ケア利用のハードル
庭野:先生も2歳のお子さんがいらっしゃるんですよね?
園田:僕の妻は助産師なんですね。国体にも行った、根性めっちゃある女性なんですけど、それでもやっぱり産後はしんどくて、産後ケアを利用したんですよね。利用した時に、思わず涙が出るみたいな、まさにそういう状況で、妻も何で泣いているか分からなかったそうです。その後妻と話した時に、多分24時間ずっとずっと緊張しっぱなしだったと。
野中:命が懸かっているので、せっかく自分の命を懸けて産み落とした子どもなのに、その命をどうしたらいいんだ!?と思うんですよね。
園田:専門家である助産師さんに子どもを託すことができて、連続6時間夜寝られたことでめちゃめちゃ元気になりました。うちは妻が医者になるために医学部に行っているので、夏休みに子どもを産んで3週間弱で復学したんです。
庭野:3週間でというのもすごいですね。
園田:その時住んでいる自治体は、「(産後ケアの利用のために)紙を市役所に出しに来てください」という仕組みで…
庭野:昼間申し込みの紙を出しに行くために学校を休むわけにはいかない。
園田:手続きに行けなくて結局2回しか使えず、ありえないなと思って、今、解決するための事業に取り組んでいます。
庭野:紙を出しに行くのではなくて、スマホで産後ケアの申し込みができるような仕組みを考えられているんですか?
園田:スマホで自治体への登録から施設の空き状況までパッと分かって、予約ができるという仕組みを今作っています。(来年2月リリース予定)
庭野:最後に子育てとか産後を考えて、どういう社会になってほしいと思いますか?
園田:病児保育とか、産後ケアというのは、地域にいる助産師さんや、看護師さん、保育士さんなどの専門家が子育て支援をしてくれるというめちゃくちゃいい事業なんですが、あまり利用されていません。だいたい、産んだ方の9割は1回も産後ケアを使っていないといわれているんです。
野中:もったいないですね。
園田:家族だけで子育てするのではなく、社会全体で子育てする。それが当たり前の社会になるように僕も取り組んでいきたいと思っています。
あとは、女性が育休をとるとキャリアが途絶えてしまう。それで子どもを産むのを躊躇することがあると思うんですよね。例えばフランスであれば、「育休明けはキャリアアップするんだ」と2000年前後にシラク大統領が3原則の中で言っていて、素晴らしいなと。
庭野:むしろ育休から戻ってきたら昇進すると。
園田:あんなに不確実性があって、マネジメントが難しい“子育て”をやってきた人ってめちゃめちゃ評価されるべきだし、レベルアップしているじゃないかというのが考え方の根底としてあって。それって僕、子育てを自分でやって本当に思うんですよね。そういう考え方もみんなにとって当たり前になってほしいです。
女性も男性も安心して産む選択ができるし、子育てもみんなでやるから大丈夫だよという価値観が当然になっていく社会をみんなと一緒に実現していきたいなと思っています。
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